ハニー

宿部屋でテオが出したハチミツを見たディーユは、ふいに笑ってこう言った。 「ああ、恋人の日だから?」 テオが貰ったハチミツだ。 くれたのは、教会の同僚だった。たくさんあるからお裾分けなのだと彼女は言っていて、渡されたのは透き通った琥珀色をした小…

胸に馴染まない居心地の良さ

吐息が上がる声と、打ちつける肌の音だけが、部屋を支配していた。 月明りも入らない室内で、開ききった瞳孔が僅かな影を捉えている。 昼間の攻城戦で覚える鋭い張り詰めた興奮とは違う、鈍く緩く永続的に続く興奮と快楽――それが自分たちのセックスだった。 …

夜の凶器とその手段

ときどき、怖いほど冷静な狂暴さにかられる夜がある。 部屋の中の、なんでもない引き出しから突然、腕ほどのナイフが出て来たような気分だ。こんな大きな刃物、しまった覚えも持っていた覚えもない。何故ここにあるのかも分からない。 そのよく研ぎ澄まされ…

ディーユ #30day

#30dayうちの子語りchallenge (@todomaguro0様よりお借りしました!) day1 30daysで語るキャラクター 名前:ディーユ 職業:戦闘型BS 外見:黒髪紫目 流し目 ドヤ含み笑い 内面:存外に繊細な、努力型の完璧厨 day2 誕生秘話先に殴りプリ×BSの話を書いてい…

クロウ #30day

#30dayうちの子語りchallenge (@todomaguro0様よりお借りしました!) day1 30daysで語るキャラクター 名前:クロウ 職業:支援プリースト 外見:金髪碧眼の可愛い系イケメン 内面:喜怒哀楽が激しく沸点が低い day2 誕生秘話先に殴りプリ×BSの話を書いてい…

リアリティ

ココモビーチに行ってきたという彼の話を聞いて、テオが思い浮かべたのは浜辺に並べたデッキチェアに寝転がるディーユだ。派手な柄のサーフパンツに、前なんて少しも閉めないラッシュガード。フルーツのささったカクテル片手に、サングラスをかけたまま寝転…

ノウ 目次

真実はいつも宙を舞う液体だ。世界はその衝動の残像だ。皮膚に染み込んだあなたの欲望の匂いが取れない。それが僕の死へと向かいたがる欲望を閉じ込め、握りつぶす。僕は世界の愛が煮詰まった鍋をかき混ぜる役割を担おう。近づくのならば、僕は切る。それは…

Wait until dark (2)

【分岐点の夜| A turning point in my life.】 【 Theo 】 ディーユくんと出会った日の夜、彼はそんな話をしてから突然、糸が切れたように眠ってしまった。心地のいい寝物語が終わってしまって、俺はしばらく彼の寝顔を眺めたまま、その静かな余韻を味わっ…

Wait until dark (1)

【プロローグ | Prologue】 少しだけ、俺の話をしようか。 シュヴァルツバルト領の僻地。ミッドガル大陸にあって、ルーンミッドガッツ王国の恩恵という名の監視を受けていない街。すべての支配からうまく逃げおおせた水の都。それがアルデバラン――俺の育っ…

食べてしまいたいぐらいかわいい

セックス中のジェンは普通にえっちだ。薄暗い部屋で見上げるジェンはすごくいい。必死に俺とセックスしようとして、俺を愛撫して、俺で感じているジェンなので、もちろん可愛い。そういうときのジェンは前しか見てない。目の奥まで使って俺を見ている。じっ…

早く服を着ろ

片づけ切れなかった仕事を置き去りにしたまま、寮に帰ってきた。 残してきたのは、本当なら今日の内に他部署に回してしまいたかった案件だった。日が暮れ、辺りが暗くなってきてから他部署へは無理だな、と悟った。ならばせめて終わらせるだけでも、と机に向…

ウィンナーを食う奴は馬鹿

酒の席で、ウィンナーを食べているときほど自分のことを愚鈍だと思う時間はない。 周囲に喧噪があって、隣には顔見知りの仲間が座っていて、テーブルには種類の乱雑なアルコールと、肴のフライドフィッシュや茹でたウィンナーがある。 その日の狩りの打ち上…

Just the way you are

通り過ぎていく風はまだ肌寒いのに、日差しはもうすっかり春だった。暖かくなったプロンテラの街には当たり前のようにごった返した人々がいて、カリシュは人いきれにうんざりする。せっかく気温がまともになっても、こんなにあちこちに行きかう人間がいると…

言ってない話

ディーユは、最近、男と寝た。 女と寝ることはあっても、男とはそうそうない。初めて男を食ったのは、以前の恋人だったクロウのときだ。誘われて、それに乗った。久しく会っていなかった幼馴染が、目を見張るほどの美青年に成長していたものだから、それをま…

まだ見たことがないあなたの

ない、と叫ぶ大きな声が廊下から繰り返し聞こえた。 宿屋の二階、昼下がりの静かな時間だったものだから、声はやけに響いていた。 不思議に思いフィオナが廊下へと顔を出せば、声がするのはギルド仲間の部屋からのようだった。開いた扉の入口付近に立つシェ…

興が乗るよりも願望に忠実なキス

ふわっと近づいてきたジェンの気配が、俺の顔面の前で止まって、焦点も合わないままに唇だけが触れた。やわく、二度、三度、ついばまれて、それはゆっくりと離れていく。体重の移動に、ベッドの枠が軋む音がした。月明りだけの部屋に、お茶をにごしたような…

絡み酒

愛しているの、と問われて、分からない、と答えることが多い。本人になら、意図は分からずとも理解できなくもない現象だが、問われるのは必ず、他人にだ。あの人のこと、愛しているの。「分からない」 答えている時、自分の心はほどほどに虚無だとカリシュは…

ぬるくなったビール

少し、張りつめた空気を感じる。テロでもあったか、とクロウは投げやりにベンチへ腰を落とした。首都プロンテラに集う冒険者は、人口が多い分、強者も多い。たとえ街中にモンスターが湧いても普通なら三分程度で片が付いて、すぐに何もなかったようないつも…

幸せな夜

「むかし、猫と暮らしてた」 ノルドハイムが唐突にそう言った。 月があかるい夜だった。部屋の明かりはとうに落としていたが、窓から差し込む月光が、布団に波模様の影を描いていた。リザベルは特に相槌をうつこともせず、もう一度ノルドハイムの素肌の、胸…

フィオナ、眠っているのか?

「眠っているのか?」と声がした。 甘い甘い声だった。角砂糖の上に温めた蒸留酒を垂らしたみたいに、じゅわりと甘く、痺れるような錯覚がした。声はやがて体の奥に染み入り、熱をうんでから、拡散していく。声の語調に責めるニュアンスは含まれていない。た…

場末の砂ぼこりのような違和感

良いけど俺、既婚者だぜ?と笑って断るビジャックは好きだった。あの男に相手にされようなんていう身の程知らずの女が、隣でバッサリ切られていくのも、見ていて痛快だった。それは大抵、酒場で、しかも首都ではない遠征先の町々で、かつイアーゼが隣で飲ん…

欄干と思い出ランチ

「おい」と、真上から掛けられた声に、クトノは顔を上げる。何かとてつもない既視感を覚え、いやそんな客観的な判断を下すまもなく、反射的に――まったくいつもの通りにその声の方向へ振り返れば、そこにはやはり直感どおり、その男がいた。王城堀の大通りか…

教会のお仕事

灼熱のような太陽が、プロンテラの石畳を肉でも焼けそうなぐらい照らしつけている。暑さのせいで若干揺らめいてすら見える中庭の床を、二階の窓から眺めながら、ナツキはため息を押し殺した。ここは屋内で、地面から少し距離があるから、まだマシなほうだ。…

進化

久しぶりに用事でクロックの元を訪ねたら、女がいて驚いた。ただ、髪も肌も着ている服も、全身真っ白な女だったので、カリシュは彼女がホムンクルスのミッシーであることに辛うじて気づけた。白でなければあぶなかった。彼女はアルケミストのクロックが作っ…

噂話

「そういやアイツ、カノジョできたぜ」 「…は?」 たっぷり間を置いて、十秒、頭の中で飛びかった色々な言葉たちを何一つ捕まえることが出来ず、クトノはそうオウム返しに尋ねた。 「……カノジョ?」 「そう、カノジョ」 クロウはつまらなさそうに同じ言葉だ…

焼き尽す炎は素敵

「居たぞ!」 太い声が闇に響く。 その瞬間、どっと音がして建物の柱か何かが崩れる音が後に続いた。轟音だ。炎がこれほどまでに悲鳴をあげるものなのか。 意識が段々とはっきりしてくる。 夜の空気は研ぎ澄まされていて心地よい。 なんだ、燃えるんじゃない…

来訪

(1) ギルド、ユグドラシルが停泊している宿の食堂は、食堂というより、バーの形態をしている。 その日、サユは入り口側の壁に面した一番奥の席に座って、ギルドメンバーたちの騒ぎを眺めていた。 見回りから戻った彼らは、資金班が適当に狩りで集めてきた…

飲み込む事を、身体が拒絶している

ノウの一撃に、つんざくような音を響かせ、その剣は宙を舞った。 両手で持つように作られたそれは、重く、硬い。自身を回転させ、床に刃を擦り付けるたびに、金属音が鳴る。その音を目で追うように相手が視線を逸らした瞬間、ノウはもはや右手と同化したカタ…

靄がかかる

(1) また、頭痛がやまない。 砂糖蜜漬けのオレンジが何枚も乗せられているチョコレートケーキをショーケース越しに眺めながら、これはどこかで見た覚えがあると、ノウは口に手をあて、しばらく考えた。 黒いチョコレートケーキに張り付いた、一枚の円。鮮…

ワルツ

二人と、一人。 後方から、アサシンが追って来ている。 夜風の間を縫うように駆けながら、ノウは足音に耳を澄ます。 訓練されたアサシンの、静かな足の音だった。爪先から滑らかに重心が移動していくのが、見なくても解かる。 夜のプロンテラの街に沈みこむ…