あなたの目から覗く世界は

ウィステリアが夫の部屋に入った時、ドアの辺りにはすでにアルコールの匂いが充満していた。くぐもっているのに何故かツンと鼻を刺すブランデーのような香りだった。広くない部屋だ。数歩すすめば、すぐにベッドの上に彼が倒れているのが見えた。灯りはない…

炊き出しの日(あるいは、休館日)

建物の外に出ると、時刻は既に昼も暮れかけのころだった。もう少しすれば、赤や黄や緑のグラデーションが空に描かれる首都の夕焼けが見られるのだろうが、オーフェンが自室にまで移動する間にはそのような美しい時間は訪れない。今、頭上にあるのは、ただ採…

『ナイトのレニ』が加入する事について

レニは正直、今日が約束の日だということを、すっかり忘れていた。 だからぼんやりと宿でコーヒーを飲んでいた昼下がり、イアーゼが「待たせたな」と自分のテーブルにやって来たとき、何のことだか分からなさ過ぎて、芝居か何かなのかと疑ったほどだ。面倒く…

微力(11)

7-1 パリンと、ガラスの割れる音が夜の路地に鳴り響いた。グラスか窓か酒瓶か、何がどういう経緯で割れたのかは分からない。どこで割れたのかにも、さほど気にならない。その後に続く怒声や悲鳴も、この街の夜を体現する記号の一部でしかない。 スルガは自分…

微力(10)

6 コンコン、とノックされたドアの音は、おそらく非常にささやかだった。 けれど意識の覚醒まぎわだったスルガは、その音にガバリと飛び起きる。他人の気配だ。視線はほとんど無意識にいつものテーブルを探す。 テーブル――がない、いつもの位置に、カタール…

軌道

珍さんのさ、カタールに乗ったことある?あれ最高なのよ。下から切り込まれたときに、靴先をちょっと浮かしてさ。飛び上がる瞬間に、刃先に合わせんのよ。したら、軌道に合わせて脚がグンって上がんの。間違ったら脛から先が吹っ飛ぶけどね。うまく靴と噛ん…

夢の中の彼

時々、まだ、どうしようもなく兄の夢を見る。 繰り返すせいで、現実でもないのに記憶の一部になってしまった夢だ。「またあの夢だ」と夢の中でも分かる。 分かるのに、どうにもできない。 その無力さが、幼い頃の感覚の一部に、妙にリンクして、だから不思議…

夏が来る

紙袋と引き換えにコインを払ったジェンが、片手で釣銭を断ったのが見えた。 お、と思ったけど、何に対してそう思ったのかちゃんと言葉にはならなかった。 なにもお手柄ってわけじゃない。3,999ゼニーなんて値札が付いた店で4枚払って、律義に1ゼニー受け取…

恋愛相談

「でも俺は基本的に、ヤったもん勝ちかなって思うよ」 紫煙と共に、プリースト、ツイードがそう吐き出した。それを隣で聞いていた彼の恋人のアサシン、スルガが、まるで言い訳のように飛び上がって否定する。 「いや! 慎重に行こうよ、そこはさ。好きな子で…

アイドルのツイードさんと、ガチ担のスルガさん

※現パロ ツイード:アイドル スルガ:強火担 「今日、休みですよ」 ツイードが声をかけると、店の入り口に立っていた男、スルガが背後に振り返った。彼はこちらの姿を見たとたんに面白いぐらい目をまんまるにしてパチパチさせた後、「あ、あ…」と言葉にもな…

ツイード #30day

#30dayうちの子語りchallenge (@todomaguro0様よりお借りしました!) day1 30daysで語るキャラクター 名前:ツイード 職業:支援プリ 外見:金髪(左目が隠れる前髪) 赤紫目 内面:ゆるだる のらくら day2 誕生秘話今までのキャラクター相関図とは全く関…

スルガ #30day

#30dayうちの子語りchallenge (@todomaguro0様よりお借りしました!) day1 30daysで語るキャラクター 名前:スルガ 職業:アサシン(クリティカル型) 外見:水色髪 緑目 平凡 内面:頼りなさげ 根本はドライ day2 誕生秘話今までのキャラクター相関図とは…

アルベルタの海とコーヒー

狩りの休日の朝に、早くから階段広場でコーヒーを飲んでいると、レニのことを思いだす。 遠くに見えるアルベルタ港の船と朝市、ちらちらと光を反射する海面。これを見ながらホットコーヒーを飲むのがこういう日の楽しみで、朝早い俺のこの楽しみに付き合って…

カリシュ #30day

#30dayうちの子語りchallenge (@todomaguro0様よりお借りしました!) day1 30daysで語るキャラクター 名前:カリシュ 職業:殴りプリ 外見:銀髪蒼目 彫刻的美形 内面:淡白 虚無感 day2 誕生秘話とにかく殴りプリが作りたかった。BSと組ませてアドレナリ…

アップルパイとクリスマスリング

「お前、腹減ってるか」 前を歩いていたイアーゼが、突然振り返ってそう聞いた。石畳を見ながら歩いていたジェナードは、顔を上げて「え」と一度立ち止まり彼女を見る。プロンテラ王立図書館の帰り道、時刻は昼を過ぎてから少し経つぐらいの頃合いだった。 …

微力(9)

5-5 「俺……今、なんで謝られてます……?」 スルガは、困惑したまま半笑いで首を傾げていた。 「え。さあ、なんででしょうね」 結論が出たツイードは、自分の中の折り合いがついたものだから、頭の中の荷物が全部きれいに片付いたせいで、細かいことはどうでも…

微力(8)

5-4 宿は、酒場と目と鼻の先にあった。 古いがシンプルな造りの安宿で、入口の掲示板以外は壁に何もかかっておらず、カーペットすら敷かれていない。 ツイードの借りている部屋は、三階の廊下の突き当り右手側だ。 狭く長い廊下を歩くツイードの後ろを、スル…

微力(7)

5-2 実際のところ、今日やらなければならない用事なんて本当はなかった。 プロンテラの街を散漫に歩きながら、ツイードは暮れかけの空を見上げる。 行く当てはないが、このまま帰るのも嘘をついていたみたいでなんだか嫌だ。仕方なく、ツイードの足は教会へ…

微力(6)

4 「あれ、スルガさん一人じゃん」 スルガが昼過ぎのたまり場でいつもの石段に腰かけていると、そこにやって来たのはマシューとオーフェンだった。二人はこのたまり場では有名なハンターとプリーストのコンビだ。 「ちわ」 「ちわーっス」 スルガがまだたま…

微力(5)

3-3 ミョルニール山脈の北奥地にある鉱山の炭鉱。かつてはミョルニール炭鉱として多くの鉱物や石炭が排出されたが封鎖されてもう長い。そこにモンスターが住み着きダンジョンのような巣窟と化してからは、その廃鉱は冒険者のかっこうの狩場となっていた。 ス…

微力(4)

2 東プロンテラの雑多な酒場通りの一角。割とよく来る店のカウンターで、オレンジ色のランプをぼんやり眺めていたツイードに、後ろから声がかかった。 「よう」 通りのいい声。振り返れば、サラエドがそこにいた。たまり場常連の一人であるハンター、マシュ…

夜風と、夕方の記憶

ふいに意識が戻ってきたときには、すでに夜深くだった。心地いい風が部屋をゆるやかに流れている。 キュリオスは、違和感のせいでまどろむような眠りから覚醒する。肌に何も身に着けていない。服を着なくては、と体を起こし、それから直前までの情事を急に思…

微力(3)

1-5 「だー! 吐くな! 吐くなよ!?」 酔った騎士、ルシカをおぶったまま、ハンターのマシューが心配そうにそう叫んでいる。 「どりょくする…」 だらんと腕を垂らし、彼女は青ざめた顔でうなだれた。 いつのまにか仲間内もそこそこに飲んだらしく、酒場の一…

微力(2)

1-3 「寒ッ!」 「うっわ、さむ」 久しぶりに出したポータルをくぐれば、そこは一面銀世界。冬の街、ルティエだ。突然変わった気温に背筋がぎゅっと縮み上がる。 シーズン中なら屋台やら人混みやらでまだ少しは温かみもあるだろうけれど、季節外れで人の気配…

微力(1)

1-1 その日のプロンテラは晴れていた。 天の高いところに流れる白い雲をいくつか乗せただけの、あまりに青い爽快な空が広がっていた。教会の薄暗い部屋から出てきたばかりのツイードは、出口の扉を後ろ手に閉め、眩しい空に眼を細める。今日もいい天気だ。け…

やらせろ談義

「ツードさんは、俺が性欲の魔獣になったらどうするんですか」「ん?」「ツードさんは」「ん? ん? スルガさん、一旦ビール置きましょうか」「いや、酔ってませんよ」「いいからいいから」「いや、違いますよ、酔ってはいますよ、酔っ払い諭すような感じや…

意味のない夜

甘い小雨が降っている。 柔らかく、何の意味もない夜だ。 『明日行こうか?』とディーユが言った言葉を、頭の中だけで何度も転がしている。 そう言われて当たり前のような態度を取ってしまった。「今夜は無理なんだね」 なんで愚鈍な態度だろうと、後になっ…

テオ #30day

#30dayうちの子語りchallenge (@todomaguro0様よりお借りしました!) day1 30daysで語るキャラクター 名前:テオ職業:MEプリ(支援スイッチ)外見:薄緑色セミロング 灰色の目 やわらか 容姿端麗内面:好奇心旺盛 自信と余裕day2 誕生秘話 ふんわり優しげ…

ジェン #30day

#30dayうちの子語りchallenge (@todomaguro0様よりお借りしました!) day1 30daysで語るキャラクター 名前:ジェナード (ジェン) 職業:大魔法型ウィザード 外見:緑色のクセ毛、黒縁メガネ、明茶色の眼。 内面:読書好きの寡黙な陰キャ day2 誕生秘話魔…

ある日の三つ目の講義

『遠いかの地に夢を馳せることは知恵のひとつだが、それに囚われるのは愚かな行為だ。私たちはこの地に約束された恵みを受け取り、その責務を果たさなければならない。』 読み上げた講師の声は明瞭だった。 残念なのはその声の聡明さに見合うだけの知恵も意…