〖Assa〗ノウ

ノウ 目次

真実はいつも宙を舞う液体だ。世界はその衝動の残像だ。皮膚に染み込んだあなたの欲望の匂いが取れない。それが僕の死へと向かいたがる欲望を閉じ込め、握りつぶす。僕は世界の愛が煮詰まった鍋をかき混ぜる役割を担おう。近づくのならば、僕は切る。それは…

焼き尽す炎は素敵

「居たぞ!」 太い声が闇に響く。 その瞬間、どっと音がして建物の柱か何かが崩れる音が後に続いた。轟音だ。炎がこれほどまでに悲鳴をあげるものなのか。 意識が段々とはっきりしてくる。 夜の空気は研ぎ澄まされていて心地よい。 なんだ、燃えるんじゃない…

来訪

(1) ギルド、ユグドラシルが停泊している宿の食堂は、食堂というより、バーの形態をしている。 その日、サユは入り口側の壁に面した一番奥の席に座って、ギルドメンバーたちの騒ぎを眺めていた。 見回りから戻った彼らは、資金班が適当に狩りで集めてきた…

飲み込む事を、身体が拒絶している

ノウの一撃に、つんざくような音を響かせ、その剣は宙を舞った。 両手で持つように作られたそれは、重く、硬い。自身を回転させ、床に刃を擦り付けるたびに、金属音が鳴る。その音を目で追うように相手が視線を逸らした瞬間、ノウはもはや右手と同化したカタ…

靄がかかる

(1) また、頭痛がやまない。 砂糖蜜漬けのオレンジが何枚も乗せられているチョコレートケーキをショーケース越しに眺めながら、これはどこかで見た覚えがあると、ノウは口に手をあて、しばらく考えた。 黒いチョコレートケーキに張り付いた、一枚の円。鮮…

ワルツ

二人と、一人。 後方から、アサシンが追って来ている。 夜風の間を縫うように駆けながら、ノウは足音に耳を澄ます。 訓練されたアサシンの、静かな足の音だった。爪先から滑らかに重心が移動していくのが、見なくても解かる。 夜のプロンテラの街に沈みこむ…

お食事

(1) どうでもいい話だが、ノウが最後に固形物を口に入れてから、そろそろ一週間ほどが経つ。 正確には、経つと思う。特にカウントしてない。自分の食料を日数ごとに事細かに記憶する趣味を、ノウは持っていないので。 普段はハチミツや飴や卵のようなもの…

ああ、この男も死ぬのか

「後はお前がやれ、ノウ。いいか、お前がマスターだ」 吐く息は荒く、そして白かった。 屋根の上はいつものように、風が強く吹いていた。 遠くに、黄色い月が見えた。随分赤みを帯びた黄色だった。夜の闇は深く、四角い建物の天井ばかりで埋め尽くされた景色…

知り、否定するもの

何もない夜だった。 風もなく、音もなく、月だけが明るかった。 調度、教会の仕事終わりが遅れたこともあって、アレイスが何か食べて行こうと言い出した。 二つ返事でナツキは了承する。 時々、アレイスはこんな風にナツキに夕食を奢った。ペースはある程度…