「後はお前がやれ、ノウ。いいか、お前がマスターだ」
吐く息は荒く、そして白かった。
屋根の上はいつものように、風が強く吹いていた。
遠くに、黄色い月が見えた。随分赤みを帯びた黄色だった。夜の闇は深く、四角い建物の天井ばかりで埋め尽くされた景色が、星に照らされていた。
スオウが急所を刺した男は、死んでいるように見えた。けれどまだ虫の息があるかもしれない。それを抱えるスオウは、不自然なほど血を流していて、右腕は肘から先が付いていなかった。
喉元を締め付けられるような緊張が走ったのを覚えている。
どんな敵に睨まれても、そんな恐怖を感じたことはなかった。
「死なばもろともだ」
ニタリ、彼はこんな場でも、余裕が癪にさわる笑みを浮かべてた。
足元の砂利が、磨り潰される音が、何故か近くに聞こえた。
突き刺した男の死体を抱きかかえるようにして、彼はバランスを後ろに崩し、
そして―――
『 シナバモロトモダ 』
ノウには言葉の意味が解からない。
スオウはそのまま、夜の闇へと消えて、なくなった。
(ああ、この男も死ぬのか)
彼とて例外ではなかったのだ。
2008.09.04